有限会社 照沼農園 代表取締役 照沼 洋平 氏
(インタビューアー:茨城県共同受発注センター 住谷、山口)
茨城県共同受発注センターでは、設立10周年ということで、多くのお仕事を発注して頂きかつ障害者福祉に高いご理解を頂いている発注事業者の方を、表彰することに致しました。
優良農福連携賞に選ばれたのは、有限会社 照沼農園です。1年半ほど前から農福連携に取り組んでいる、有限会社 照沼農園 代表取締役 照沼洋平様に、農福連携への取り組み状況や効果、今後の展開などについてお伺いしてきました。(以下敬称略)
農福連携で水耕栽培に取り組む
山口:照沼農園は、農家としてどのような歩みをしてきたのか、農福連携との出会い、現状などを教えて頂けますか。
照沼:農家を初めて18年。メインは米作りです。現在は18haの水田で米作りをしています。現在、農福連携で取り組んでいるのは水耕栽培です。水耕栽培は初めて4年になります。主に、みつば、大葉、チンゲン菜、リーフレタス、ベビーリーフ等、葉もの野菜を中心に多くの品種を作っています。
もともと水耕栽培には興味があったのですが、設備が高い事もあり、開始するまで時間がかかりました。設備の一部を自作するなどして、ようやく開始することができたのですが、人手不足には悩んでいました。
1年半ほど前に、茨城県共同受発注センターの活動員が訪問してきて、農福連携の事を知りました。試しで始めて見たのですが、現在は欠かせない戦力になって貰っています。
水耕栽培で作った作物は順調に売れています。現在、2施設の方に来て貰って、週3~4日作業をして貰っています。現在、4棟のビニールハウスで水耕栽培を行っていますが、7棟増やして合計11棟に拡大する予定で、新たに設置工事を行っているところです。
10以上の作業工程の変更で 業務効率が向上
住谷:実際に農福連携に取り組んで、予想外の効果があったと、以前お伺いしました。
照沼:そうです。農福連携を行う事で想定外の効果がありました。
水耕栽培は扱う物の重量が軽いことから、農福連携に向いているとは考えていました。現在は、植え付けから出荷のための袋詰めまで、幅広い工程をお願いしています。対象の業務を拡大する中で、我々が考えていた作業方法では、障害者の方が出来ない事が多々ありました。では、どうやったらお願いできるのか。結局、障害者の方に合わせた作業方法を新たに考えるしかありませんでした。ところが、新しい作業方法を考え出してやってみると、健常者である当社の従業員にとっても、新しい作業方法の方が楽で効率が良いと言うことが多々ありました。このように、作業方法の見直しを行ってきた結果、10以上の作業工程を改善し、大幅に業務効率が向上しました。これは予想外の効果でした。
山口:例えばどんな工程改善が行われましたか。
照沼:一つ具体例を言うと、植え付け工程の変更です。今迄は、ビニールハウスの中で作業を行っていました。水耕栽培といえども夏は暑く、障害者の方の健康状態が心配になりました。そこで、日陰で一気に作業をして、そのパネルをビニールハウスにもって行く方法を採ることにしました。日陰で作業することで、思いのほか業務効率が改善して、今では当社の従業員も同じやり方をやっています。ただ、このやり方も直ぐに成功したわけではありません。指示・伝達が悪く、ビニールハウスの中のパネルの設置位置が、大きく間違えることがありました。パネルの位置を正しく戻すのに凄く労力がかかったことがあります。そこで、パネルの置き位置を記号化して、どこに置くのかを記号で指示することにしました。これで間違いも減りました。このように、一つ一つ改善を積み重ねています。
農福連携の成功のカギは、 「待つこと」と「コミュニケーション」
山口:当センターがマッチングした農福連携案件では、継続出来ない案件も多いのですが、照沼農園で成功している理由は何だとお考えでしょうか。
照沼:多分ですが、最初から多くの結果を求めてはいけないのではないでしょうか。障害者の方も安定した作業を実施出来るようになるまでは時間がかかります。経験的には、半年ぐらいでしょうか。逆に半年待つ間に、作業はどんどん速くなっていきます。例えば、水耕栽培で作った複数の葉もの野菜を40gずつ袋詰めする作業もお願いしています。だいたい最初は、100袋の袋詰めに3時間ぐらいかかりますが、半年ほど待つと1時間程度で仕上げてしまいます。作業効率で考えると3倍です。障害者の方の成長には、正直驚かされます。
しかし、単に待つだけでは業務効率は向上しません。障害者に業務を伝達・指示する支援者とのコミュニケーションが重要です。どうすればより良くなるのか、何が悪かったのか、話し合い、コミュニケーションを取ることで改善していく必要があります。
支援者が、毎回同じ人とは限らないので、稀にもの凄く効率が落ちるときがあります。「支援者の能力が違うとこんなにも違うのか」と思う事もあります。もちろん、その時も原因は何かから始めて、コミュニケーションを取りながら改善を進めていきます。
山口:支援者の能力というのは、どういった能力でしょうか。違いを生み出す能力はどのようなものだとお考えでしょうか。
照沼:求められるのは、特別な能力ではありません。大切なのはコミュニケーションを取る能力です。来たときの挨拶、「おはようございます」「こんにちは」、仕事が終わった後の「お疲れ様でした」「お先に失礼します」が、当たり前に出来るかどうかが基本です。稀に、いつ来たのか、いつ帰ったのか分からない場合がありますが、その場合は作業が上手くいっていないことが多いです。
支援者の方が声出ししていると、障害者の方も声出しをする。「もうちょっとですから、最後頑張りましょう。」とか、「○グラムの作業だから間違えないようにしましょう。」、「袋が無くなりましたので持ってきて下さい。」といった風に、励まし合い、作業内容を声掛けし合うことで、良い雰囲気ができ、業務効率も向上します。
農福連携で作った作物を 世界に売っていきたい
山口:今後の展開として、どんなことを考えていますか。
照沼:現在、グルーバルGAPの認証取得を目指しています。最初は米の輸出になるかと思うので、水耕栽培だけでは無く、稲刈りなど米に関する仕事にも、農福連携を広げていきたいと考えています。障害者の方も、自分達が手がけた作物が、世界中に広まっていると考えると、やりがいが出てくるのではないでしょうか。
その第一歩というわけではないですが、農山漁村振興交付金の取得ができました。この交付金を利用して、更なる業務の拡大を図りたいと考えています。そのためには、今まで以上に、効率的な作業の発見、業務の標準化・マニュアル化を図っていきたいと考えています。
(訪問日:2021/9/13)
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